「今日は国産のブタ切り落としが58円……マルですわね」
 授業の休み時間、幸の机には新聞の中に入っているチラシが置かれていた。近所のスーパーの安売り情報がこれでもかと羅列されている、単色のチラシ。
 それを手慣れた感じでチェックしては、要所要所にマルを入れていく。
「ニンジンは……保留で、大根はマルですわね……と」
「今日は何か良いのあったの、幸?」
「まぁまぁですわね、正直。価格高騰ばかりが先に立って、消費者は基本的に苦しくなるばかりですわ……小麦粉、マル」
 一般的な学生が昼間にする会話とは思えない内容。
 徹底的な安売りなどのチェックをする姿は、まさに主婦というかオバサンという風格をかもしだしていた。見た目や口調、普段の物腰はどこかお嬢様的なのに、中身は完全に熟練の主婦そのもの。
 見た目とのギャップに何人もの男子生徒が幻滅したという事実、知らぬは本人ばかりなりというあたりでもあった。
「いつも大変そうだね。何かあったら手伝おうか?」
「慣れれば荷物とか持つのはたいした事でも無いですわ。それに、家計を上手にやりくりするのは、これはこれで楽しいですし……マル」
 数学のドリルを解くみたいに、てきぱきとチェックをしていく幸。彼女の夫になる人間はきっと、毎月のこづかいが少なくなりそうな予感をさせる姿だった。




「あ、小麦粉は一人二点までですわ。穂乃香さん、手伝って下さるかしら?」