――もう、夏が訪れていた。


    いつの間に梅雨は終わったのだろうか。
    肌にまとわりつくようなジワリとした感覚は消え、代わりにうだるような熱さが大気を支配する。
    最も生命に力が満ち、やがて来るべく冬に備えてその力を蓄える季節。

    そして、数年前に……姉を失った季節。


    「また、思い出してるのか?」
    隣にいる相方が、そうアタシに話しかけてくる。
    忘れるはずが無い、忘れられるはずがない。
    アタシにとっては世界のすべてであり、いくつもの過酷な現実から守ってくれていた、大切な姉なのだから。
    ひだまりのような暖かさでアタシを包んでくれた、その感触は今も胸に残っている。
    「思い出すまでも無いわ」
    そう、アタシにとっては思い出す必要すら無い。
    その笑顔も、何もかも、ぜんぶぜんぶ、覚えているから。


    「行きましょ、リチャード」
    そう、姉が歩いていた道を。
    鬼と戦うというその意味を、アタシは理解しなくちゃいけない。
    今はまだわからないけど、ただ……戦うのみだから。