そのに


リチャ
「さて、そんな訳でいつも貴方のそばに置いておきたいウサギNo1の座に輝いているリチャード稲葉がお送りす……(踏みッ)……むぎゅっ」

すずり
「とりあえず捏造やめなさいよね、じゃないとこのまま敷物にするわよ?」

リチャ
「だが少し待って欲しい。実際に『リチャード脳内アンケート』では、二位の薄井まいけるを置いてぶっちぎりのNo1!」

すずり
「それは妄想って言うんじゃないかしら」

リチャ
「いやいやいや、この愛くるしい容姿を見たら誰もが抱きしめたくなると言ってくれるのは世界の掟」

すずり
「あたしはイヤよ」

リチャ
「……すずりは世界に含まれません」

すずり
「ずいぶんな言いぐさじゃないのよ、このドグサレ毛玉」

リチャ
「だってすぐに可愛いウサギの事を踏みつけるしなぁ。こんなにも日々愛くるしく頑張って毛並みをブラッシングしつつ、情報収集を欠かさないのに」

すずり
「その愛くるしいウサギのご飯を買ってきて、わざわざニンジンの皮をむいてあげてるのは誰かしら?」

リチャ
「いつもいつもありがとうございます。ウサギ的に感謝してます」

すずり
「とりあえず捏造はほどほどにしなさいよね」

リチャ
「了解した。そばに置いておきたいウサギNo1(希望)のリチャードという事で」

すずり
「卑屈なんだかそうじゃないんだか訳わからないわね。ま、別にいいけど」

リチャ
「ちなみにありがたい事に、質問のメールがいくつか届いている。それらすべてに一気に答えるのは難しいので、順を追って説明したいと思うので了承していただきたい」

すずり
「前回の毛玉が必死にやったセールストークも無駄じゃなかったって事ね」

リチャ
「毛玉言うなやー。そんな訳で前回は鬼や精霊などについての事をしたのだが、今回は二回目らしく姫巫女について語ってみようと思う」

すずり
「あたしは別に姫巫女に所属してるって訳じゃないんだけどね」

リチャ
「まぁ、そのあたりは横に置いておいて。基本的に巫女というのは神社に勤務して神職の補助、神事などの舞を踊る事が主な仕事となっている」

すずり
「……アタシの知ってる姫巫女は、ビール飲んでくだ巻いてるのと、訓練の時だけやたらと厳しい鬼教官と、世話焼きでおせっかいなポニテなんだけど。あれは神社に勤務してるって言わないと思うわ」

リチャ
「まぁ、そもそも巫女と姫巫女は根本的に違うからな。基本的に姫巫女という存在は、鬼を専門に戦う戦士であって。神事などの舞を行うような事は無い」

すずり
「つまり根本的に違うってのなら、どうして連中は姫『巫女』って名乗って、鬼と戦ったりしてる訳? 別にアタシみたいな格好してもいいし、ジャージ着て戦ってもいいじゃないのよ」

リチャ
「少し遠回りな説明になるかもしれないが。鬼の存在というのは、八百万の神々が転じて精霊となり、精霊の中で堕ちたのが鬼になるという事なのだが」

すずり
「前の時も言ってたわね、それは」

リチャ
「そして巫女という言葉の一つには神の子と書いて『神子(みこ)』というのがある。これは古代において自らの身体に神を憑依させるという行為が行われていたと考えられている」

すずり
「ずいぶんとオカルトな話ねぇ」

リチャ
「そういった呪術的儀式に関わっていたが巫(ふ・かんなぎ)と呼ばれていた。そのあたりが転じて巫女という一般的な名称に変わっていったという説もある」

すずり
「そいえば、鬼と戦う力を『巫力(ふりょく)』って言ったりした事があったわね。それも関係あったりするの?」

リチャ
「ようするに神降ろしをする、古代に行われていた神子としての力。それを行使して戦う事出来るという意味で、姫『巫女』と名乗っている訳だ」

すずり
「って事は、この巫力を使って戦うって行為は。いわゆる神降ろしの一種って事ね」

リチャ
「あと姫巫女の『姫』って名前の方は、これもまた過去には別の名前がついていたりするのだが」

すずり
「もしかして卑弥呼巫女(ひみこみこ)とか、神楽巫女(かぐらみこ)とか言ったりするのかしら」

リチャ
「いや、こっちは意外に感じるかもしれないが。鬼の巫女と書いて『鬼巫女(きみこ)』と呼ばれていたりする」

すずり
「訓練してる時の真魚がそんな風に感じる事は多いわ」

リチャ
「でも世の中、鬼教官とか厳しい方が後で役に立つ事は多いと思うがな。とりあえず過去の姫巫女は、鬼と戦う力を持っていた、あるいは鬼と同等の力を持っていたという事で」

すずり
「別に名前を変える事は無かったんじゃないのかしら。と言いたいけど、その名前じゃいまいち戦ってる方も嫌よね」

リチャ
「まぁ、実際に読みが同じという事もあって。まず『鬼巫女』は貴族の貴と漢字を変えて『貴巫女』と呼ばれるようになった」

すずり
「それは鬼と戦う事の出来る姫巫女……鬼巫女か。それが貴重な存在だったから?」

リチャ
「同時に、神事的な意味合いで神降ろしをして戦う事が出来るという事も含めて。とうとい存在であるという意味も含まれている」

すずり
「ならその名前で良かったんじゃないの。わざわざ姫という言葉にしなくても」

リチャ
「そこは歴史の中で貴族が力を失い、武士が力を持って群雄割拠になっていったという所がある。そうした流れの中で、姫は『き』と読む事も出来る事から、歴史の流れにそうように姫を付けた形に転じた訳だ」

すずり
「すると最初に姫巫女になった時は、わざわざ読みを『きみこ』って読んでいて。それが自然と『ひめ』って呼ばれるように変化していった訳ね」

リチャ
「あともう一つ、最初に鬼巫女と呼ばれた理由があったりする」

すずり
「まだ他に理由があるっての?」

リチャ
「普通の人間は、巫力が無い。いわゆる神降ろしの力を持っていない訳だが」

すずり
「ま、そりゃそうね」

リチャ
「ではどうやって最初に巫力を身につけたか、それは過去に鬼との子供を産んだ娘が巫力をもっていた事に始まる訳だ」

すずり
「い……ッ」

リチャ
「はっきりとした文献では記されていない事ではあるが、鬼は鬼同士でお互い憎み合うような関係の鬼もいたりした訳だ」

すずり
「ま、人間同士だってウサギ同士だってケンカはするわよね」

リチャ
「とある暴れん坊の鬼がいて、他の鬼達はその鬼に辟易していた。だが自分達の力では暴れん坊の鬼に勝てない……そこで他の鬼達が思いついたのは」

すずり
「女性達に子供を産んでもらって、その暴れん坊の鬼を退治してもらおうって考えたりしたって事な訳?」

リチャ
「多数の鬼達は暴れん坊に困っており、人間も暴れん坊の鬼には困っていた。ならばそれが退治できたならば……と、お互いの利害が一致したという事だな」

すずり
「すんごくシビアな話ね」

リチャ
「ま、これは姫巫女の由来の中でいくつかある説の一つだ。実際の所、正確な文献などが残されていない為に、あくまでも説の一つでしか無い」

すずり
「でも、確かに納得行く所は多いわ。あまり認めたくは無いけど、毒は毒をもって制するって言うしね」

リチャ
「姫巫女の由来というのは、そんな感じだったりする訳だ。そんな訳で、ご先祖様と呼んでもらっても構わないぞ?」

すずり
「あたしのご先祖様に、足ふきマットはいないんだけど。ってかアンタはそんなに年くってたっけ?」

リチャ
「おっと、男に年齢を聞くのはヤボってもんだぜお嬢ちゃん」

すずり
「……とりあえず、アンタがご先祖様じゃない事だけは理解したわ」

リチャ
「何故バレたっ!」

すずり
「バレるバレないってレベルの問題なのかしら、こういうのって」

リチャ
「さすがすずり、いい眼力をしてる。とりあえずキリもいい所なので、今日はこれぐらいにしておこう」

すずり
「つまり姫巫女ってのは」

・巫女という言葉の由来は神子、神降ろしの力を使えるからである。
・姫という言葉の由来は鬼、鬼を倒す為、あるいは鬼と酷似した力を行使出来るから。
・『鬼巫女』>『貴巫女』>『姫巫女』と時代の変遷に沿って名前が変わっていった。
・祖先を辿ると鬼の血が入っている。

リチャ
「まあ、鬼と言っても元々は精霊とイコールな存在な訳だから。精霊や八百万の神々が祖先だと考えた方が良いかもしれないがな」

すずり
「そうね。でも……実際にそうやって何代も連なってる訳だから、この国で生きてる人の全員が姫巫女になる可能性を秘めてるようにも思えるわ」

リチャ
「そこは遺伝だったりするのだろうな。美男美女から産まれた子供が必ずしも美形であるとは限らないように」

すずり
「…………それはアレかしら。アタシはお姉ちゃんと違って胸が小さいとでも言いたいのかしら?」

リチャ
「え? いや、ウサギ的にはちっともそんな事は思ってないのだが」

すずり
「うるさいだまれ、踏んであげるからそこに直れ」

リチャ
「ちょっ、それはいくら何でも誤解だぁっ! 落ち着けすーずーりぃぃ!!(脱兎)」