そのご


リチャ
「すっかりと寒くなって来た昨今だが。逆に暖かい食べ物が美味になってきたとも言える季節、ウサギ的には鍋物のニンジンがオススメだ!」

すずり
「どこの健康情報よ。とりあえずニンジン食べておけって発想は、なーんか安易な感じがしない?」

リチャ
「だが、ニンジンそのものの栄養素などは非常に評価が高いからな。それに冬の鍋は非常に美味だと思う」

すずり
「けどあたし、あんまり鍋って食べた事無いのよね」

リチャ
「それは非常にもったいない話だ。身体も心も温まる鍋は、誰もが喜ぶ冬の必修科目みたいな物なのに」

すずり
「ま、今度ゆっくりと鍋をつつくのも悪くないかしら。とりあえずオススメは何?」

リチャ
「基本の湯豆腐に、好きな野菜を適当に突っ込むという代物だ。白菜やニンジンを入れながら、それとなく椎茸とかも入れる」

すずり
「それだけ色々と突っ込んでるのって、湯豆腐って単語で括っていいのかしら……」

リチャ
「湯豆腐はただ単純に豆腐だけというのも悪くないのだが、今回のウサギ的には色々な材料を入れる事によって栄養価をアップするというのが目的だからな!」

すずり
「とりあえずそれを湯豆腐って言うのは反則よ」

リチャ
「世の中は基本的にルールがあるが、裏技もたくさんあるという事だ。何事も一方向からではなく、多角的に物事を見るのが重要」

すずり
「なんかその言葉だけ見ると含蓄あるように思えるけど、ぶっちゃけ湯豆腐の反則技から多角的とか言われると理不尽だわ」

リチャ
「反則でも何でも、美味なのが一番重要。そして美味な鍋を大事な人達と一緒に食べる事が出来れば、それはきっと幸せだろう」

すずり
「ポン酢は幸せの代名詞とは言ったモノよね。しかし今日のアンタは、鍋談義?」

リチャ
「いやいや、ここは姫巫女の設定を語るコーナーだっ!」

すずり
「てっきり今日は湯豆腐を中心として、鍋談義で終わるのかと思ったわよ」

リチャ
「それはウサギの義務を放棄してしまうので、鍋ではなくちゃんとした姫巫女の解説はするさ! という訳で、姫巫女は結婚出来るのかというあたりを」

すずり
「結婚……ねぇ」

リチャ
「やはり人の営みにあるように、巫女だって当然ながら結婚して子供を産むのは当然の事だからな」

すずり
「なーんかピンと来ないのよね。何せ鬼と戦い続ける日々を送ってると、ぶっちゃけて男と知り合うタイミングも無い訳だし」

リチャ
「パンを口にくわえながら街角を疾走して、曲がり角でぶつかった相手をいつものように踏みつけて愛の告白とか」

すずり
「実際にそれで男を捕まえる事が出来る人がいたら顔が見てみたいわ。ってかさ、とりあえずはアンタの口にパンをくわえさせてみようかしら」

リチャ
「え?」

すずり
「そして曲がり角から、全国でも未曾有の交通量と速度違反が目に余るような道路へと放り投げてみるから。そこでぶつかった相手にちょっと求愛してみなさいよ」

リチャ
「死ぬじゃんっ!!」

すずり
「全部ブロッキング取ればいいのよ」

リチャ
「なんだそのブロッキングってのは! というか、鉄の箱とか鉄の馬を相手にして無事な生命体はそうはいるわけないから!」

すずり
「そっか。リチャードの初恋作戦は始める前から失敗に終わるのね」

リチャ
「何か勝手に作戦にされていたっ!!」

すずり
「ま、アンタの初恋はどうでもいいわ。とりあえず、姫巫女は結婚する事が可能だって事でいいのかしら」

リチャ
「そもそも、結婚しない事には血筋が絶えると思うのだが」

すずり
「ま、そーね。あたしだって木の股から産まれてきた訳じゃないけど…………あれ?」

リチャ
「どうしたすずり」

すずり
「別にあたしの親は、姫巫女って訳じゃなかったと思うんだけど」

リチャ
「姫巫女の子供は必ず姫巫女になるという訳では無いからな」

すずり
「しかしアレね、結婚出来るって事は。子持ちの姫巫女とかが戦ったりって事もあったりするのかしら?」

リチャ
「基本的には、結婚した後で前線に立ち続けて鬼と戦い続ける姫巫女はいないな」

すずり
「育児しながら姫巫女家業が続けられない……って理由だったりしたらイヤね」

リチャ
「原因の一つとして、あまり大事なモノを多く抱え込むと、戦うのが大変になるからという理由がある」

すずり
「それは、どういう事?」

リチャ
「家族や恋人がいるというのは、確かに励みにもなる。ただその家族や恋人が鬼と戦う事が出来ない場合は……危険が増える」

すずり
「ま、確かにね」

リチャ
「あとは、肉体的交渉を行う事で姫巫女は巫力が徐々に減る。さらに子供を産むと大抵の姫巫女は巫力が激しく減退してしまう」

すずり
「子供に巫力を託しちゃうって事かしらね」

リチャ
「だがそれだと、子供は必ず巫力を遺伝出来る事になるからなぁ。実際、はっきりした事は言えないのだが、とりあえず子供を産んだら姫巫女として戦うのは難しい」

すずり
「母親が必ずしも強いって訳じゃないのね、そのあたりは」

リチャ
「あと、肉体的交渉によって『縁』の結びつきが、精霊よりも肉体的交渉を行った相手との間に強くなる。別に穢れでは無いから巫力が霧散する訳では無いのだが、縁によって巫力を行使する力が弱まると」

すずり
「とりあえずの所は肉体的に繋がった後だと、姫巫女としての戦闘能力を保持できないって結論な訳ね」

リチャ
「極論にはなってくるが、恋人との肉体的交渉をした後。穢女の浄化をする事によって縁を切り、巫力を回復させる事は不可能では無い……が」

すずり
「自分の大事な恋人とのやりとりを、そんな風にして姫祓いするなんてのはありえない話って事ね」

リチャ
「もし仮になんだが。すずりに好きな人が出来て……」

すずり
「みなまで言わなくていいわよ。自分が好きになった相手との大事な出来事を、姫祓いなんてしないわ。とはいえ、好きな人が出来てなんて想像もできないけどね」

リチャ
「もしもすずりに恋人が出来た場合、このウサギから腕ずくで奪っていくという心意気を見せて貰わないとな」

すずり
「アンタ何様よ」

リチャ
「こう、腕を組みながら電柱の上によじのぼり『もしもすずりと交際をしたければ、まずはこのウサギと戦ってもらおうか!』と高らかに宣言」

すずり
「そこをおもむろにあたしがヘッドショット」

リチャ
「何故ぇっ!?」

すずり
「あたしの恋人は、あたしが決めるわよ。勝手にウサギに仕切られる訳にはいかないに決まってんじゃないの」

リチャ
「ううっ、なんという不幸なウサギ。こんなにも健気に尽くしているというのに……」

すずり
「そいえば姫祓いとかってあたりで気になったんだけど。穢女が施す治療の内容っていうのは、どういった事なの?」

リチャ
「その治療そのものは直接見た事は無いから何とも言えない所はあるが。穢女は鬼に襲われた姫巫女や被害者の記憶を、追体験する事になるらしい」

すずり
「追体験、って。それはずいぶんと痛々しくて生々しい話ね」

リチャ
「儀式をする時、穢女は激しく悲鳴をあげて精神的にも消耗が激しいと聞く。多分、穢女自身は、幾度も鬼に襲われた経験というのを蓄積している事になるんだろうな」

すずり
「穢女には悪いけど、あたしはちょっと耐えられそうにないかも……それはキツいわ」

リチャ
「だから恋人同士の逢瀬を姫祓いするという事になると、該当の姫巫女が行った愛の営みを追体験する訳にもなる」

すずり
「さっきとは別の意味で、恋人との行為の後で姫祓いなんて出来そうにないって事は理解したわ」

リチャ
「話を戻すが。そんな訳で、基本的に子持ちの姫巫女は存在しない訳だ。ごく稀に例外が存在するのは世の常でもあるが、とりあえずウサギが把握している限りではいない」

すずり
「なーるほどねぇ、って事は」

・肉体的交渉によって、男性との縁が強くなり結果としては巫力が減る
・子供を産むとさらに巫力が減退する。一説には子供に巫力を分け与えているという意見もあるが、真偽は不明
・姫巫女から産まれた子供は必ずしも姫巫女として戦える訳ではない

リチャ
「さて、それじゃ今日はこのぐらいという事で」

すずり
「少し小腹が減ったわね」

リチャ
「そんな時には湯豆腐だなっ!!」

すずり
「いや……まっぴるまからソレは無いでしょーに」