そのなな


リチャ
「すずりー、買ってきたぞ」

すずり
「ご苦労だったわね、そこに置いといて」

リチャ
「うむ、了解した。とりあえず肉とかは冷蔵庫に入れておく」

すずり
「ん、よろしくー」

リチャ
「ところですずり、今日はいつになく気合いを入れて食事を作ってるみたいだが。誰か来客の予定でもあるのか?」

すずり
「あぁ、アンタには言ってなかったっけ。今日は穂乃香と幸と美由とで勉強会するって事だからさ、夜ご飯の準備でもと思って」

リチャ
「妙に海産物が多いから妙だとは思ったが、なるほどな」

すずり
「穂乃香がシーフード好きだって言うしね。ま、別にさ、あたしは何食べたって構わないけど。どうせ食べてもらうってのなら、好物を準備して喜んでもらった方が嬉しいと思わない?」

リチャ
「せっかく食事を作る訳でもあるしな。ところで何を作るつもりなんだ?」

すずり
「んー、お好み焼き。しかもアタシの独断と偏見で広島風」

リチャ
「おお! それは何ともウサギ的にも非常に素晴らしい、ゴージャス風味! もしかして焼きそばを三玉とか入れてもいいのか!?」

すずり
「三玉ね!? 美味いのが三玉ほしいのね!? 三玉……イヤしんぼめ!!」

リチャ
「しかし楽しみだ。ではそんな楽しみを胸に、今週も口伝をさりげなくお届けしていきたい所存!」

すずり
「あたし食事の仕込みしてるんだけど」

リチャ
「細かい事は気にしない方がいいという世間の掟があるので、あまり気にしない方がいいだろう。ちなみにウサギも気にしない」

すずり
「そりゃアンタは何もしてないからでしょが」

リチャ
「そんな訳で海産物といえば海に住む訳だが、海外では姫巫女のような組織が存在しているのかという質問が届いている」

すずり
「スルーしないでよこのゴクツブシけだま」

リチャ
「調理の手伝いをしようにも、あまり海産物の仕込みは慣れてないからな」

すずり
「いいからエビの殻を剥きなさい。んで、海外って言ってたけど。海外でも姫巫女って存在してるんじゃないの?」

リチャ
「それはどうしてそう思うんだ?」

すずり
「鬼の類とか、精霊の類とか、そういう存在が日本の中にしかいないとは思えないもの」

リチャ
「確かにその通りだ。別の国では巫女の事を『シャーマン』と呼んでいる所もあったりするし、教会などそういった機関も存在してるしな」

すずり
「って事は、海外だと教会系のシスターとかが姫巫女の役割してる訳かしら。エクソシストとか呼ばれてたりする連中とか?」

リチャ
「正直、ウサギの方ではきっちりと把握している訳ではないが。鬼に該当する存在は海外にもいるし、そういった存在がいたら正直……姫巫女みたいな感じで、鬼退治をする人々は確実に現れる」

すずり
「ま、そうね。でないと鬼に滅ぼされちゃうって話になるわよねぇ」

リチャ
「国によって呼ばれ方も異なるから、他の国に存在している鬼が鬼と呼ばれているかどうかはわからないが。悪魔とか悪霊とか呼ばれるのは、間違いなく鬼の類に入ると断言してもいいだろうな」

すずり
「そいやさ、他の国の……例えば『アメリカン姫巫女』って感じの連中とかは、ちょっかい出してきたりとかしないの?」

リチャ
「そのネーミングはどうかと思うぞ、ウサギ的に」

すずり
「仮よ、仮。ってかさ、世の中ってけっこーアレじゃない、そういった利権争いとかでドロドロしてるようなモンじゃないかしら」

リチャ
「基本的にはよその国にわざわざ来るようなケースは少ないな、というのも理由が多少なりともある」

すずり
「純正姫巫女vsアメリカン姫巫女のなわばり争いとかしないの?」

リチャ
「むしろ自分達のなわばり争いというか、土地や物に対して執着とか土着しているのは精霊だったりする」

すずり
「ん? いまいちピンと来ないんだけど」

リチャ
「たとえば土地に対しても、大なり小なり縁という物があって。その縁が強い弱いというのも少なからず影響してくる」

すずり
「すると、アメリカン姫巫女が日本に来ても能力がきっちりと発揮できない可能性が高いって事?」

リチャ
「逆に、すずりが仮に外国に行った場合とか。普段よりも明らかに能力が落ちるんじゃないかと思う」

すずり
「仮定だけどさ。アメリカン姫巫女が日本に来て、数年間過ごしてって感じで日本に馴染んで帰化するぐらいなレベルになったりしたらどうなるの?」

リチャ
「その場合は、日本でもきっちりと能力が発揮出来るようになる」

すずり
「その代わりにアメリカの方で精霊の加護が弱くなり、能力が落ちる……って事になったりするのね」

リチャ
「わざわざ自分達が能力低下するというリスクを抱えて、無理にナワバリを広げるという必要性は無いからな」

すずり
「アメリカン姫巫女が日本上陸するって展開は、まず無いって事ね。ちょっとネタ的には残念だわ……ゲルマン姫巫女とか、フレンチ姫巫女とか」

リチャ
「地球がリングで、姫巫女ふぁいとしますか」

すずり
「ま、あたしは姫巫女じゃないから関係無い話なんだけどね」

リチャ
「いや……誰もが、すずりは白兎隊の一員って認識してるんじゃないかと思うが」

すずり
「それは非常に不本意なんだけど。あたしは別に、穂乃香がいるから手伝ってるだけで……別に姫巫女になりたいって訳でも何でもないんだけど」

リチャ
「まぁ、そのあたりは多少なりとも曖昧な部分もあるしな」

すずり
「とりあえずの所は……」

・海外にも鬼に該当する存在がおり、姫巫女のように戦う人や機関が存在する。
・基本的に海外の機関とは交流がある訳でも無く、縄張り争いとかも無い。
・離れた土地だと精霊との縁が薄くなり、本来の実力が発揮できない。その為に、海外の機関とはバッティングしにくい。

・あと、アタシは姫巫女じゃないっての。

リチャ
「最後、変な主張が混じってなかったか?」

すずり
「ちゃんと言わないと曖昧になっちゃうでしょーが。って事で、とりあえずこっちの仕込みは終わりだけど」

リチャ
「うむ、エビの方もバッチリだ! このつやつやしてる感じ、宝石みたいでウサギ的にもナイス仕事っぷりと褒められてもいいぐらいだ!」

すずり
「ん? 穂乃香からメールね……と『夜ご飯、美由の提案でモヌバーガーいっぱい買っていくから準備しなくて大丈夫です。隣にいるリチャードさんの分もふくめて、ちゃんと買い物は完了してますので安心してください』…………だってさ」

リチャ
「……ま、まぁ、アレだ。一度冷凍してから、また今度のタイミングで食べればいいんじゃないかと思うんだが」

すずり
「そうね、そうするわ……」

リチャ
「何より一番重要なのは、穂乃香に対して好物を食べて貰いたいと努力したという事実だと思う。いつかその気持ちも、報われる日は来るだろうしな」

すずり
「そーねぇ。ま、適当にシーフードは食べる事にするわ……でもほんと、上手くいかないわよね、やれやれよ」