そのはち


リチャ
「……ところですずり……」

すずり
「……あによ」

リチャ
「……また今日も海産物なのか……」

すずり
「……シーフードが終わらない限り、アンタにはにんじんも無いから安心しなさい」

リチャ
「わーい♪ ……おおぅ、目から汗が止まらんのぅ」

すずり
「アタシだってつきあってるんだから、とやかく言わないの」

リチャ
「いや、すずりが原因なんだか」

すずり
「そうやって他人に残酷な真実を突きつけるのが、必ずしも幸せとは限らない事を肉体言語で教えてあげましょうかしら?」

リチャ
「正直すみませんでした、ウサギ的にもサーモンとか好きなので許して下さい」

すずり
「普通のウサギはサーモン好きじゃないでしょーが」

リチャ
「なんだろうな、こう。赤身の魚はニンジンを連想させるような、魅惑さを伴っているように思えるのだよ」

すずり
「しっかし……アンタって本当に雑食よね。普通のウサギじゃないというか」

リチャ
「世の中には、冒険者の首を刎ねるウサギもいるぐらいだからな」

すずり
「ずいぶんと物騒な世間もあったものね」

リチャ
「とりあえずウサギ系の草食動物は、小腸からの脂肪の吸収率が高いらしいのだか。肉食動物というか、雑食な生き物は吸収率がやや低かったりするのだ」

すずり
「つまりあんたは雑食な内臓をしている……と。つきあい長いけど、本当に時々疑問があるわ、アンタという存在には」

リチャ
「愛という感情を食べて生きる、ラブラビッツですから!!」

すずり
「にんじんいらないの?」

リチャ
「別腹ですから!!」

すずり
「はいはい、とりあえずはシーフード食べなさいよ」

リチャ
「はーい(もきゅもきゅ……)」

すずり
「(もぐもぐ……)」

リチャ
「(ふもっきゅ……ふもっきゅ……)」

すずり
「そいえばさ、ふと気になったんだけどさ。穂乃香とかが所属しているのが白兎隊って言ってたけど、アレともっと大きな枠で動いてる訳?」

リチャ
「枠とか言われても困るが、姫巫女は十二支隊という区分けがされてる。それぞれ十二支の名前が隊に付けられている訳だ」

すずり
「黒うさぎ隊とか、茶うさぎ隊とか?」

リチャ
「いいや、大きく隊は十二あって。そっちの方だな」

すずり
「なるほど、するとネズミとか牛とか虎とか色々あるのね」

リチャ
「あと大半の姫巫女は基本的に専業で鬼と戦ったりしている訳だ」

すずり
「……お金の出所とか気になるわね」

リチャ
「あと経済的には極端な金持ちでは無いが、基本的な移住食とかは困らないぐらいはあるらしいな。小鳥とか真魚が、普通に部屋を借りて生活に困ったりという素振りは見せたりしないだろ?」

すずり
「あの二人だと、金銭的に無頓着そうだから参考になりにくいわよ」

リチャ
「ま、姫巫女はそうやって隊に分かれたりとかしているけれど。あまり軍隊めいた統率とかは無いしな」

すずり
「そりゃ穂乃香とか他の二人見てればわかるわよ。訓練の時はともかく、普段はゆるゆるじゃないの」

リチャ
「もともと姫巫女になるような連中は、大なり小なり理由を抱えている人間が多いモノだしな。あまり規律とかで縛ったりしても、成果が無いという事なんだろう」

すずり
「そんなモノなのかしらね」

リチャ
「そりゃ重要な事はいくつか存在しているし。隊の上下とか命令系統に関しては、それなりに遵守しないといけない。ただそれは規律とは別の部分だから」

すずり
「物事に関しては真摯で当たるべきって事ね」

リチャ
「まぁ、そういった部分もあるからこそ。穂乃香のように、学生しながら姫巫女をやるという事も成立する一面もあると」

すずり
「なるほどねぇ」

リチャ
「あとは姫巫女になると決めた人間は鬼からの被害を直接、あるいは間接的に受けた人間が多い。鬼に遭遇する、襲われる事によって、能力が開花するという事だ」

すずり
「えらく物騒なモノね、そのあたりは。ってかさ、それだと鬼に遭遇しないで姫巫女になった人とかは……いないの?」

リチャ
「いる」

すずり
「そういう姫巫女ってのは、どういった形で自分の能力を知る訳なのかしら」

リチャ
「確実に巫力を持った子供が生まれるという訳では無いが、能力が親から子へと受け継がれるケースも存在する訳で。姫巫女の中でも古い歴史というか、古い家柄はいくつか存在しているという事だ」

すずり
「自分の能力を知るような出来事に遭遇する訳じゃなくて、そういう家柄に産まれて育てられて学ぶって事ね」

リチャ
「特に中でも歴史が古いと言われている家柄がいくつかあるのだが。その中の一つが真魚の『鶴来』という家柄だ」

すずり
「……え゛! そーなの?」

リチャ
「何をそこまで驚いてるんだ」

すずり
「いやなんというかさ。身近っていうのかな、すぐ近所に大リーグの選手が住んでいて驚くみたいな感じって言うのかしら」

リチャ
「確かにアレだな。古い家柄とか老舗とか、そういうのが近所にいたら驚くというのはあるかもしれないな」

すずり
「しっかしま、真魚がそんなに凄い家柄だったなんてねぇ」

リチャ
「世の中は広いようで、意外と狭いという事だな」

すずり
「それはそういうモノじゃないかしらね。世の中は広くても、ある程度は能力とか趣味とかが似通った人間が寄り集まってコミュニティを作り上げていくじゃない」

リチャ
「だから同じように姫巫女であるなら、姫巫女同士がそうつながっていても不思議じゃないし。別にそこに古い家柄の姫巫女が混じっていてもおかしくはないと」

すずり
「驚いたのは事実だけどね。でも理解も納得も出来るわ……つまり」

・姫巫女の隊は複数存在しており、十二支の名前が付いている。
・専業で姫巫女をしているのが多数を占め、経済的には困らないらしい。
・隊にはそれぞれ規律などはあるが、ガチガチにルールで縛られるような事も無い。

リチャ
「そんな訳でそれぞれが事情を抱えながら戦っている訳だが。結局の所、個々のそういった複雑な事情をつなぎ止めるのは規律とかのルールではない」

すずり
「そうなのかしら?」

リチャ
「結局の所、人と人が繋がるのは心なんじゃないのかと。信頼とか、思いやりとか……クサい言葉かもしれないが」

すずり
「本当に似合わないわよ、アンタ」

リチャ
「ががーーーん!!」

すずり
「ま、とりあえずエビまだ残ってるから食べなさいよ。あたしは信じてるわ、アンタはできる子、ちゃんとシーフードを食べられる子だって」

リチャ
「あと何日続くんだ、海産物の日々は……」