そのじゅういち


リチャ
「ハメ外しすぎないようにすると吉!!」

すずり
「のっけから何を言ってるのかしら、アンタ」

リチャ
「成人式って事でほら、色々と新しく溜まったエネルギーを上手に発散したくなる人々がいるかと思うのだが。大人というのは分別を理解してわきまえるという事も重要だと、ウサギ的に思ってみた」

すずり
「アンタ何様よ」

リチャ
「色々と愛される社会派ウサギを目指している、『愛の狩人』という所だな」

すずり
「なにそのウザい称号。聞いたダケで背筋に寒い何かが走り抜けちゃったじゃないの」

リチャ
「うぅっ、世界平和を望んでやまないのに。ウサギ的にはラブ&ピースなのに……」

すずり
「別にその愛が世界を救うって思考とかは嫌いじゃないけど、そんな簡単に言葉だけで片付けられるようなモンでも無いしね。世の中って単純じゃないし」

リチャ
「まずは身近な一歩から!」

すずり
「ま、そうね。何事も少しずつ進めていけば、目的地には近づくって穂乃香もよく口にするし」

リチャ
「そんな訳で今回は届いた質問に答えていきたいという訳だったりするのだが」

すずり
「変な質問だったりするんじゃないでしょうね?」

リチャ
「別に3サイズとかそういったネタが来ている訳じゃないから安心して欲しい」

すずり
「もしそれを仮に言われたら、今日はウサギの薫製を作らないといけなくなる所だったわよ。胸? なによ胸って。所詮は脂肪の塊じゃないのっ、塊なんて塊魂やってりゃ十分なのよぉっ!」

リチャ
「いや、そこまで過敏に反応しなくても……」

すずり
「ちょっとアンタも言ってやりなさいよ。女性の魅力は胸じゃないって!」

リチャ
「というかどうしたんだ、そんなにいきなり勢い良く語調を荒くして」

すずり
「アタシだって好きで成長しないんじゃないわよっ。なのになのにっ、『白兎隊は女性らしい方々が揃っているのに、どうしてすずりは所属してるんですか?』なんて言われてるのよこんちくしょぉっ!!」

リチャ
「あー、なんというか。それは非常に難儀だなぁ」

すずり
「うるさいうるさいうるさいっ! そもそもアタシは白兎隊になんて所属してないって言ってるじゃないの、もはや胸なんてっ、胸なんてええぇぇぇっ!」

リチャ
「あ、あのー、すずり……さん? じ、実際の質問とは異なる状況でございますので、そろそろ本題に入ってよろしいでございますでしょうか?」

すずり
「うっ、ううぅぅぅっ、ちくしょぅ……っ、うぅぅぅぅぅぅ……」

リチャ
「とりあえず落ち着け、すずり。誰もそんな質問なんてしてないから……な」

すずり
「うぅっ。もうどんな質問でも来いって感じよ、何でも聞きなさいよぉっ! 別に下着の色だって答えてやるわよ、黒よ黒っ! 似合わないとか背伸びしてるとか言うなぁっ! うがぁぁぁっ!!」

リチャ
「おっ、落ち着けっ、頼むから落ち着いてくれぇぇぇぇ!」

すずり
「落ち着いてるわよ、えぇ落ち着いてますとも、どうせアタシは白兎隊じゃないですから関係ないしね」

リチャ
「と、とりあえず現状はそういった質問じゃないから、な? な?」

すずり
「わかったわよ……落ち着いてきたわ、少しずつだけど」

リチャ
「それは何よりだ。では改めてなんだが『姫巫女というのは、訓練とかって何をやっているんですか?』という真面目な質問が」

すずり
「何をやっているねぇ。アタシは別に白兎隊じゃないから完全なメニューまで把握している訳じゃないけど、知ってる限りなら」

リチャ
「そういえば、すずりは穂乃香と常に一緒に訓練をしている訳では無いんだよな」

すずり
「そーね。そもそも武器の特製が違っている事から、すべて同じ訓練をしてみても意味がないって所でもあるから」

リチャ
「単純にすずりは飛び道具で、穂乃香は近接武器だしな」

すずり
「だから姫巫女連中ってのは基礎体力をつける訓練と、武器の使い方を身体に染みこませる訓練。そして組み手とかをやったりするのが大まかな分類になってくるわね」

リチャ
「ずいぶんとアレだ、体育会系な感じの事をするんだな」

すずり
「そんなの当たり前に決まってるでしょ。鬼とゲームや勉強で勝負する訳じゃないんだから、身体は多少なりとも鍛えないといけないのよ」

リチャ
「まぁ、それも当然か」

すずり
「しっかしアレはまいったわ……去年の話だけどね。真魚に引きずられて、穂乃香と一緒に砂浜でランニングをさせられたりしたわ。わざわざ旅館まで確保されて……」

リチャ
「確か一週間ばかり、合宿とかしたんだっけな。非常に海の幸が美味しい所でした」

すずり
「正直、あの時の運動はハードすぎて食事の味なんてまったく覚えてないわよ。食欲が無い所に強引に詰め込まれたし……」

リチャ
「夜はずっと寝てばかりいたよな、ほとんど口も聞かずにグッタリと」

すずり
「だって砂浜を一日に五キロは軽く走らされたのよ。ただでさえ走るのがしんどい砂地を延々と!」

リチャ
「まぁ、ウサギは海水浴と日光浴を堪能しつつ。さらにビーチバレーや砂に埋まって昼寝と、最高のバカンスを楽しみました。まさに命の洗濯」

すずり
「何かすごく思い出したらムカついてきたわね。ってか正直、ブッ飛ばしていい?」

リチャ
「ごめんなさい、ちょっとウサギ調子に乗りすぎました。ものすごーく反省しておりますので」

すずり
「でもまぁ、そういった事もあったりしたおかげで。1500メートル走は五分切るぐらいのタイムは出るようになったんだけどね」

リチャ
「確かすずりぐらいの年齢だと、1500メートル走は四分台前半だと国内でもトップレベルって域だったはずだから……かなり凄い領域じゃないか!」

すずり
「どうだろね、実際。クラスの中とかでは早いって言われるかもしれないけど、そういった記録の為に走り込んでいる訳でもないから」

リチャ
「今からでも素直に日本代表目指して努力するというのはどうだ?」

すずり
「やらないわよ。んでまぁ、そんな事もあったりって所で身体をほぐす為に2000メートルを走るのがトレーニングの中で普通にやるようになってるわね」

リチャ
「走る前と走った後にストレッチをしたりしてるよな」

すずり
「ケガ防止の為だったり、身体の可動範囲を少しでも広げたりっていう事でやったりしているわね。そのあたりは」

リチャ
「ストレッチの中で腕立てとか腹筋とかも入り混じったりしてたな。と、こうやって軽くまとめてみるとますます体育会系の空気が出てるなと」

すずり
「でも結局の所、そういった部分は基礎体力とかの向上を中心にって感じね。極端に筋力を付けたりする訳じゃなくて、あくまでも身体がスムーズに動くように。そして長時間の戦闘に耐えられるようなスタミナ作りが主な部分よ。ま、穂乃香の方はちょっと要領が違うらしいけど」

リチャ
「それは近接武器という所からなのか?」

すずり
「そそ。特に穂乃香の場合は刀が武器だから、多少は力を必要とするケースもあったりするらしいわ」

リチャ
「でも正直な所、鬼と力比べをするような状況に至った場合……姫巫女の腕力じゃ鬼に勝てないと思うのだが」

すずり
「そりゃ力比べするなんてナンセンスに決まってるじゃないの。基本的に鬼を叩き斬るのは姫巫女の腕力じゃなくて、巫力なんだから」

リチャ
「なら筋力そのものはあまり重要視されないような」

すずり
「根本的にある程度の筋力が備わってないと、武器を振り続けるという事は出来ないって事よ。それと武器を振る速度は筋力も多少なりとも関係するし」

リチャ
「どれだけ巫力が高くても、それを支える戦闘能力も同時に持っていないと意味がないという事か」

すずり
「そーゆー事ね。だからそういった筋力を鍛える事もふくめ、穂乃香は武器の素振りをやったりもしてるわよ」

リチャ
「で、穂乃香が素振りをしている間。すずりの方は横になって紅茶を飲み、シュークリームを口に運んでいると」

すずり
「アンタと一緒にしないで。こっちはこっちで単純に、射撃の精度を高める為に訓練をしているんだから」

リチャ
「しかし巫力で作られた弾丸という事は、多少は狙いがいい加減でも相手を追尾したりするんじゃないのか?」

すずり
「相手が動かない的ならともかく、動く相手を狙って当てるという事は難しいのよ。必ず同じようにパターンで動いてくれる訳でもないんだから」

リチャ
「まぁ確かに、相手だってそう撃たれたくは無いよな」

すずり
「あとアタシの場合、腕を振って照準を定めるという動作をする時。ピタリと狙いが定められるように、腕を振って止めるって練習もしてるわ」

リチャ
「それは……わかるようなわからないような?」

すずり
「ちょっと試しにやってみればわかるわよ。2リットルのペットボトルを手に持って、部屋の壁の方を向いて」

リチャ
「正直ウサギの手では2リットルのペットボトルは持てないのだが」

すずり
「持った気分になりなさい。んで、その壁の四隅に順番に照準を合わせて引き金をグッと引くの。それを幾度も幾度も、四隅に照準を合わせる間に腕が疲れて段々と狙いがしっかり絞れなくなってくるでしょ?」

リチャ
「まぁ、動かせば疲れるのは当たり前だな」

すずり
「その時に照準がブレないように、きっちりと合わせられるように練習する訳。今は単純に立ちながら照準合わせしてるけれど、実戦だと動き回りながら狙いを定めないといけない訳だかららね」

リチャ
「ものすごく地味な事を延々と繰り返してるって事だな」

すずり
「地味とか言うな」

リチャ
「でも確かにそうやって日々精進して積み重ねるからこそ、鬼と戦う事が出来るという訳なんだな」

すずり
「そういう事よ。だからとりあえず、姫巫女は地味な体力トレーニングや反復練習を中心にやっているって訳ね」

リチャ
「改めてそう説明されると、一つ納得出来る事がある」

すずり
「ん? 何がよ」

リチャ
「いつもビールばかり呑んでいるどこかの隊長は、あれだけのカロリーを取る乱れた食生活なのにどうしてスリムなのか……というあたりがな」

すずり
「え? 小鳥が基礎訓練してるのって見たこと無いわよ、アタシ」

リチャ
「……は?」

すずり
「真魚はアタシや穂乃香と一緒になって訓練していたりするけど、小鳥はそんな風に訓練しているのって……一度も無いわ」

リチャ
「すると、一体あの隊長はどこでカロリーを消費してるんだ……?」

すずり
「さーねぇ。とりあえずアンタも適度なカロリー消費の為に運動とか一緒にやったりしてみる?」

リチャ
「おーらい。このウサギも特訓して金メダルを入手出来る日が来るよう、努力と研鑽を重ねていきたい所存!!」

すずり
「何の競技を狙うつもりなのよ、アンタ……」