そのにじゅう


リチャ
「ところですずり、エビの殻を剥いているとこう……ウサギ的にイヤな予感がするんだが気のせいか?」

すずり
「あによ、やぶからぼうに。別にいいじゃない、シーフード好きでしょアンタも」

リチャ
「ウサギ的にシーフードが好きだと言った事は一度たりとも無かったはずなのだが。いつのまにそうなったんだ?」

すずり
「アタシがそう決めたからいいのよ。そうすればほら、穂乃香が後で来た時に『ウチのウサギが食べたがっていたからついでに準備しただけだから』って。説明がしやすくていいじゃないの」

リチャ
「すまん、すずり。その説明をする理由がさっぱりとウサギ的には理解できなかったりするのだが……」

すずり
「穂乃香の為に準備したって言ったら、穂乃香は気にするタイプじゃない。だから準備はこっそりと、あくまでも相手に気を使わせないのが本当の気遣いなのよ」

リチャ
「ウサギの為に色々と気遣いしてくれるという選択肢はないのだろうか、たまには」

すずり
「アンタがアタシの為に気遣いをしてくれたら、その時には検討に入れて上げるわよ。まず他人にそういった何かをねだるのは良くないわ」

リチャ
「とりあえずエビの殻は剥き終わったぞ……っと。そんな訳で次のイカの仕込みをしつつも、いつものヤツという事で。何やら質問が一気にまとめて届いてウサギ感激!!」

すずり
「なになに……美由や幸はリチャードさんのことをどんなふうな認識でいるんでしょうか? って質問が来てるけど。どうなのよ、そこんとこ」

リチャ
「先日に街中で美由嬢と幸嬢とであった時に真っ先に言われたのは『あぁっ、わんこだぁーっ。わふわふっ!』『何を言ってるんですか美由さん。普通のウサギに決まってるじゃないですか……少し珍しいかもしれませんけど』だったぞ」

すずり
「いいわね、明日からアンタも犬って事にしなさいよ。というかそれって、まさか人によって見え方が違うってオチじゃないでしょうね」

リチャ
「多分、美由嬢の感性が独特だとは思うが。何はともあれ、珍しいウサギという事で普通は認知されているはず」

すずり
「いいじゃない、毛玉でさ。下手にウサギとか犬とか名乗るより、よっぽどその方がアンタらしくていいわよ」

リチャ
「別にそんな所で自分をアピールとかしている訳じゃないのにぃぃぃぃぃッ。毛玉よりは愛くるしいウサギであっていいじゃないくわっ、くわくわっ」

すずり
「さて、毛玉の主張はそれぐらいにして。えっと次は……アタシのように姫巫女には所属してないのに、鬼退治をしている人ってどのぐらいいるのか? って事なんだけど」

リチャ
「数は非常に極小、言うなれば稀。というのも、一人で鬼と戦い続けるという事のメリットはあまり無いだろうしな」

すずり
「少なくともアタシはバッティングした事無いわね、そんな相手と」

リチャ
「ただウサギの耳には、ゼロという訳では無いという情報は届いている。とはいえ、幾度か鬼と遭遇して戦闘に至ると。それはそれで姫巫女に認知され、スカウトされるようになる訳だがな」

すずり
「……穂乃香も幾度となく言ってくるのよね、困った事に」

リチャ
「さてさて、次は。姫巫女は自分の意思によって色々と武器とかを作り上げる事が出来るようですが、奇想天外な武器は無いのですか? という事なのだが」

すずり
「あによその奇想天外な武器って」

リチャ
「んー。この質問によるとアレだ『死神が使うような超巨大な鎌』とか『巨大な合体ロボ』とか『学校の教科書』みたいなものらしいが」

すずり
「可能性だけで言ったら、鎌は可能。巨大な合体ロボは絶対的に無理で、教科書は基本的には無いけど……武器としては作れるって感じに思えるんだけど……どうかしら?」

リチャ
「ほほぅ。それはどういう理由で?」

すずり
「確か以前に、作る事の出来る武器は本人のイメージを越えられないだとか、巫力の限界を超える武器は作れないって言ってたじゃない。アンタが」

リチャ
「それは確かにそうだな」

すずり
「って事はよ。最初の超巨大な鎌に関しては、死神って色々な物語とかで出てくる明確なイメージが存在しているし」

リチャ
「ムチ持ってるどこかの血族に倒されるイメージまでハッキリとしてるな、確かに」

すずり
「強そうな武器に思える所も含めて、そういうのを顕現させる人がいても違和感無いわよね。だから鎌を持ってる姫巫女はいると思うわ」

リチャ
「ムチを持ってる姫巫女もいたりするしな、実際。幾匹もの鬼が悩ましい表情でそのムチ巫女によって調伏されたというのもある」

すずり
「それで次に出てくる巨大な合体ロボだけど。こっちは巫力の限界って事で、形に出来ないんじゃないかしら」

リチャ
「非常に素敵じゃないか、巨大合体ロボ。百体合体とかありえない数を寄せ集めて、巨大な鬼を討ち滅ぼせって勢いで行くしか!」

すずり
「アンタの方が勢いでいい加減な事言ってるじゃないの」

リチャ
「細かい事は気にするなや。あまりそういう事ばかり気にしてると、胸も増量しなくなるぞ?」

すずり
「とりあえずアンタ後で踏むから覚悟しておきなさいよ。ストック一回分ね」

リチャ
「あんですと!? こ、こんな可愛らしいウサギに対してなんという仕打ち。ひ、酷い……酷すぎる……よよよよよ」

すずり
「アンタが悪いんだからね。ま、いいわ。んでアレよアレ、最後の教科書だっけ? イメージそのものは可能だけど、それを武器として使おうって考える人間は少ないんじゃないかしら」

リチャ
「まぁ普通の人間なら、教科書で戦おうって考えたりしないだろうしな」

すずり
「そもそも教科書で相手を倒す事が出来るって具体的なイメージが湧かないのよね。ネタとしてならともかくとして」

リチャ
「でも世の中には分厚い聖書でもってゴスッと相手の脳天凹ませるような剛の者もいたりするよ!」

すずり
「ならアタシも教科書でウサギの脳天をガコンッと一発凹ませてみようかしら?」

リチャ
「ちょっ! なしてそうなるんだぁっ! こんなに清涼で優しいウサギへと恐ろしい所業をするなや!」

すずり
「ま、冗談はともかくとしてさ。教科書で鬼を刺せるとか、殴り殺せるとか、そういったイメージを強く抱いている姫巫女って少ないと思うのよね」

リチャ
「ま、本はあくまでも本であって武器では無いからな」

すずり
「だから仮にイメージで顕現させる事はできても、武器として使うという思想って普通は出てこないでしょうしね。まぁ……派手好きな巫女なら使う事もありそうだけどさ」

リチャ
「ただ壊れるからな、武器も。小鳥の武器が壊れてるように、教科書とかで作った武器は壊れたからといって使い捨てという訳にもいかないだろうから」

すずり
「そういえば武器は壊れるって話はしてたわよね」

リチャ
「何はともあれそういう事でもあるな。という感じで、すずりの言ったとおり。大鎌はアリで、ロボは無し、教科書は可能性はあるが……ウサギ的にはまだそういった情報は聞いた事が無いという事に尽きる」

すずり
「さて、こっちのタコも一段落した所で。そっちはどうかしら?」

リチャ
「ばっちり完成だ! この適度なイカの仕込み、ウサギ的にもここまで艶が出てると恐ろしい……まさに悪魔の所業」

すずり
「ずいぶんと白いけだまな悪魔もいた物ね。でもこれで準備は完璧、今日こそは穂乃香をこれでもかってぐらいにもてなしてあげないと……って、メール?」

リチャ
「……まだ冷蔵庫も冷凍庫も空きはあったな、確か」

すずり
「え、と……。とりあえずリチャード、この仕込みしてある海産物は……適当にしまっておいてくれるかしら?」

リチャ
「なんというかアレだな。穂乃香嬢に内緒で食事を作るのではなく、作る事を宣言しておいた方がいいんじゃないのか? 向こうも気を使ってモヌバーガー買ってきてくれてるようだから……な」

すずり
「うるさいうるさいっ。そういう露骨なのはアタシじゃないってのっ、そういうのは絶対に嫌なんだから!」

リチャ
「まぁ気を落とすなや……」