【001】


リチャ
「トンネルを抜けると、そこはファンタジーだった」

シャルト
「いきなり現れるなり……ずいぶんと不思議な事を言う生き物ね」

リチャ
「やや、こんちには! もとい、こんにちは! あっしは【リチャード・稲葉】と申します、【情報ウサギ】にしてクールな男」

シャルト
「クールというよりは、フールが似合うけど。ま、いいわ。アタシは【シャルト・コーニッシュ】よ。【魔術ギルド】【トライ・ノーレッジ】に所属している。職業は【シーフ】って所かしら」

リチャ
「シーフというと、盗賊という事なのか……。でも、盗賊という割には、所属しているのが魔術ギルト……ウサギ、現在は混乱しております」

シャルト
「ギルドは組合、同じ志を持っている人達の集まりという訳なのよ。だから魔術ギルドと言っても、魔術を使えない人が所属しているのもおかしくないわ」

リチャ
「ふむ。まぁ人々が集まるような場所では、さまざまな役割を持っている人材が集まるのも当然という事か。ちなみにシャルト女史は魔術は使えるのかえ?」

シャルト
「使えないわ。そもそも、魔術はそんなに効率良い物じゃないからね。あまり便利とは言い切れないかしら」

リチャ
「便利じゃない? ウサギ的に魔術というのは、モニョモニョと呪文をとなえる事によって大きな街を更地にする事の出来る物だと思っていたんだが」

シャルト
「ずいぶんと物騒な話ね、それは。でもウチのギルドで使われている魔術は、そんなに都合の良い物じゃなくて、物質を変換させるという事ね」

リチャ
「物質を変換させる……つまり、ドロの塊を金とか銀とか宝石にする事が出来るという訳だな!」

シャルト
「出来るけど、割に合わないわよ? 単純に説明すると、金とか宝石を作る為のコストはその倍の材料費が必要になるから」

リチャ
「そう簡単にお金稼ぎはできないという訳なのか……」

シャルト
「残念ながら、ね。お金稼ぎが簡単に出来るようなら、ウチのギルトはとっくの昔に王国を築いているわ」

リチャ
「すると魔術ってあまり意味が無いような?」

シャルト
「そんな事は無いわ。魔術は物質を変換させる事も出来るけど、変形させる事も出来るのよ。どういう事に使うかって言うと、壊れてしまった道具の修理や、簡単な怪我を治したりする事が出来るの」

リチャ
「なんと!? それは非常に万能なんでは無いだろうか」

シャルト
「万能というには少し難しいわね。大きな怪我を治そうと試みた事もあるらしいんだけどね、上手くいかなかったみたい。魔術の効力を出す事の出来る範囲がそんなに大きく無いみたいなのよ」

リチャ
「魔術はまだ便利というにはほど遠いんだな」

シャルト
「そうね、だから今の魔術ギルトは……近所の町医者さんレベルで考えられている所が多いらしいわ」

リチャ
「ウサギが踏まれた時も是非に治して欲しいかもしれぬ。ところで魔術ギルドなのにシーフがいるという理由というのにはまだ触れてない気が……」

シャルト
「ん、ここのギルドのメンツに借りがあるからよ。つまり魔術は関係無しで、人付き合いとしてのお手伝い。だから衣食住も含め、色々とお世話になっているの」

リチャ
「でもせっかく世話になっているのならば、魔術も学んでみればいいのでは?」

シャルト
「適正があるみたいね、魔術にも。アタシもちょっとやってみたけど、下手だったから諦めたのよ。まだまだ魔術も研究され初めて時間が経過してないから、これからどうなるかはわからないけど」

リチャ
「なるほど。ちなみにウサギも魔術を学ぶ事は出来るのか?」

シャルト
「学ぶのは本人のやる気であって、魔術を学んだからといって全員が使えるとは保証できないけどねー」

リチャ
「なんという現実はリアル! ウサギは軽くショックを受けつつ、とりあえず今日はこんな感じでと思う。また何か色々とお話とか聞かせてもらえると嬉しい予感」

シャルト
「ま、アタシで良ければね。とりあえず仕事で出ている時じゃなければ、ギルドの方に来てくれればいると思うから」

リチャ
「さてと……身を休める為にも、宿を探しに行かないと……」