そのさん


リチャ
「先日、ドイツまで行って来(た気分になり)ました!」

すずり
「なによそれ。ってか、めっちゃくちゃ意味不明な事言われても困るんだけどさ」

リチャ
「巫女はシャーマンと呼ばれ、ドイツはジャーマンと呼ばれたりしてる訳でだな」

すずり
「話のネタ振りとしてはかなり駄目なレベルね。ってかもう今日はとっとと寝なさい、おやすみ」

リチャ
「酷ッ! まだ始まったばかりだというのに、このウサギの素敵トークを聞きに百人ぐらいの人がチェックしてくれているというのに!!」

すずり
「脳内に百人いるって幸せね」

リチャ
「うぉーーーっ。なんか今日のすずりは辛辣すぎる、このウサギにもっと優しく、もっと愛を込めて!」

すずり
「いいからとっとと始めなさいよ。そんな意味不明な前置きされたって、読んでる人が困るんだからね」

リチャ
「了解した。前回は姫巫女のルーツみたいなあたりを説明した訳だが、今回は『姫巫女が処女でなくなると霊力を失う理由は?』というあたりについてを」

すずり
「えらく直球な題材ね」

リチャ
「まずは正確な所を言うと、霊力……姫巫女達の場合は巫力(ふりょく)という力なのだが。これは処女喪失によって失われる訳では無かったりする」

すずり
「……そうなの? でも実際に、姫巫女は鬼に襲われちゃったらそのまま反撃出来ずにズルズルと転落しちゃうじゃない」

リチャ
「それは襲われてしまう事によって『穢れ』が巫女へと移り、降ろされていた巫力が散ってしまう訳だ」

すずり
「穢れって、ぶっちゃけて言うと汚染されたって感じで。不潔だとか不浄ってあたりと同じな訳?」

リチャ
「どちらかというと、精神的とか観念的な意味での汚れが穢れって事になる。そして穢れが身体にある状態だと、姫巫女として戦う為の力が霧散してしまう訳だ」

すずり
「そうなっちゃったら終わり?」

リチャ
「いや、穢れはそれを祓う事が出来る。ただ穢れを祓うには、これはまた姫巫女の中で独自に行われている『姫祓(きばらえ)』という事が行われる」

すずり
「姫祓って、最初の姫って文字はやっぱり鬼が由来な訳?」

リチャ
「ああ、そうだが」

すずり
「何だかこうしみじみと、鬼の力でもって鬼と戦うっていうのは複雑だわ……と思ったりしてね」

リチャ
「血清も、毒を克服する為に毒をって訳だからな。そんな訳で姫祓という行為によって、姫巫女は再び戦う事が出来るようにはなる訳だ……理論的には」

すずり
「あによ、その理論的にはって。えらく歯切れが悪いじゃない」

リチャ
「少しキツい内容ではあるのだが。鬼に襲われた姫巫女は、孕まされるかその胎内に卵を産み付けられるという行為をされてしまう訳だ」

すずり
「……っ。そうね」

リチャ
「当然、戦闘において身体的に痛めつけられている訳だが。鬼によっては関節を脱臼させたり、腱を切ったりという事すらする相手もいる」

すずり
「まるでアレね。ジガバチが卵を産み付ける時に、獲物に神経毒を流してジワジワと……って話を思い出したわ」

リチャ
「身体的損傷が激しい巫女、精神的損傷が激しい巫女、そんな姫巫女達が穢れを祓ったからといってすぐに再び戦えるか? という問題がある訳だ」

すずり
「身体が戦えないケースや、身体は動いても心が折れちゃってる場合は、無理って事だったりする訳ね……」

リチャ
「一度姫巫女を穢し始めた鬼は、基本的に遠慮とか容赦という物を知らないからな。それこそ、一週間でも一ヶ月でも鬼達は入れ替わり立ち替わりで、ここぞとばかりに復讐をする連中も多い」

すずり
「最悪ね」

リチャ
「何より姫巫女を孕ませて鬼の子供を作らせた場合、より強い鬼が生まれる可能性も高いと言われているからな」

すずり
「競走馬の種付けみたいに思われてるのがシャクね」

リチャ
「生物の本能みたいな所でもあるからな、そこは。あまりすずりみたいな女性には不愉快な話ではあるかもしれないが」

すずり
「不愉快どころか、ますます連中に対する殺意は明確になったわ」

リチャ
「それで少しばかり話を戻すが。実際に姫祓は姫巫女の中でもごく少数の『穢女(けがれめ)』という資質を持っている巫女によって行われる儀式なんだ」

すずり
「ずいぶんと酷い呼ばれ方ね、直球で『穢れ』って言われるのも」

リチャ
「そのあたりは仕方ないというか。実際に『穢れを引き受ける女性』という役割でもあったりするしな」

すずり
「まぁ、姫巫女も元々が鬼巫女だって言われるぐらいだし。名前ってそういった所から取るっていうのは当たり前なのかもね」

リチャ
「穢女は、実際に他の姫巫女が受けた穢れをまず自分の身体へと移し。そして禊祓(みそぎはらえ)を行う事によってその穢れを祓う事が出来る訳だ」

すずり
「それって、他の姫巫女ってかさ。鬼に負けた当事者が禊祓をすればいいだけって話じゃないの?」

リチャ
「それは出来ないんだ、実は」

すずり
「どうしてなの?」

リチャ
「鬼に乱暴された事によって、その鬼と乱暴された姫巫女の間に『縁(えん)』というのが出来てしまう」

すずり
「即座に断ち切りたいような関係ね。ってか願い下げよ」

リチャ
「だが困った事に、縁というのはそう簡単に断ち切れる物ではないんだ。少なくとも縁が結びついている本人の力で縁を断ち切るには、歳月を必要とする。数年単位で」

すずり
「ちなみに、その縁が繋がっているとどうなるの?」

リチャ
「巫力を行使するのが困難になる。また巫力を使えたとしても、本来の個人が保有している能力を一割ぐらいしか発揮できないという訳だ」

すずり
「それじゃまったく話にならないわね。正直、一割で戦える姫巫女なんて……いないんじゃない?」

リチャ
「まぁ、まずダメだろうな」

すずり
「その縁ってのも、やっかいなモノね。本当に」

リチャ
「だから鬼によって乱暴された姫巫女自身ではなく、穢女によって姫祓をする。そうする事によって、強制的に縁を切り、祓う事が可能となる訳だ」

すずり
「でもさ、縁って聞いてると強力すぎて普通じゃ切れなさそうに思えるけど」

リチャ
「それを切る事の出来る力を持っているからこそ、穢女なんだ。実際に現代の姫巫女で穢女としての能力を有し、活動出来る状態なのは三人しかいない」

すずり
「少なッ!!」

リチャ
「他人が受けた穢れを受け止め、鬼との縁を切る。それだけ特殊で特異な巫力を使いこなすという事だから、本当に難しいんだ」

すずり
「そいや、真魚が治療とかそういうの使ってたけど。真魚は穢女だったって事?」

リチャ
「いや。白兎隊には穢女はいないし、すずりの中にも穢女としての資質とかが眠っているような事は無い」

すずり
「つまりあれはあくまでも治療レベルだって事ね」

リチャ
「ちなみに穢女は治療の類も長けている。穢れから肉体的なダメージまで、穢女はすべて癒やす、治療術のエキスパートと言ってもさしつかえない」

すずり
「なんか、ますます穢女って呼び方が失礼に値するような気がしてきたわ」

リチャ
「そのあたりはまた、時代によって変化する時が来るかもしれないな」

すずり
「とりあえず、結局の所」

・鬼によって犯された姫巫女は、穢れによって巫力が使えなくなる
・姫祓(きばらい)を行う事によって、再び巫力を使える状態にする事ができる
・姫祓は穢女(けがれめ)のみが可能な儀式である
・穢女は治療の巫力に長けた、エキスパート。その数は現在、三名。

リチャ
「ただ、何事にも例外があるように。稀なケースではあるが、鬼に乱暴されても巫力を行使できる姫巫女が存在する」

すずり
「それはそれで、すさまじいわね」

リチャ
「正確に言うと、元々の巫力が高い為に。穢れを受けてもまだ戦闘能力が残っているという状態なだけなので。大抵は鬼を怒らせて、より屈辱的に乱暴されるケースに繋がりやすいのだが」

すずり
「もしその時に偶然がいくつも重なれば、助かるかもしれないと。でも結局はアレね、最初から負けない事が大事なのね」

リチャ
「そうだな。ウサギ的には、もう姫巫女は誰一人として失いたくないと思う。難しい事ではあるが……」

すずり
「安心……しなさいよ、少なくともアタシはそんなドジ踏まないわ。でないと、アンタのニンジンの皮を剥いてあげる人なんて他にいないだろうしね」

リチャ
「ドジを踏まないのも重要だが、ウサギを踏むのもやめてもらえないだろうか」

すずり
「どうしてアンタはそこで、そんないらん事いうのかしら。この……足ふき毛玉っ!」

リチャ
「おおうっ!? な、何を怒ってるんだすずりっ、やめろ、足を振り上げて、踏むな踏むなっ、ぎゃわーーーーーッ!」