【003】
リチャ
「ウサギが目を覚ますと、馬小屋の外から女性のかけ声が聞こえてくる。どうやら先日に宿を案内してくれた女性のようだった」
リチャ
「という事でウサギはそんなかけ声に誘われ、宿屋の裏庭へと足を運ぶ。そこには昨日の女性が、剣を振っている姿が見えた」
ライカ
「あら、おはよ。ずいぶんと早起きなウサギさんなのね」
リチャ
「おはようございます。しかしウサギが早起きなのではなく、早起きしてしまうのがウサギ。つまり自然と情報に溢れる行動を取ってしまうのが、情報ウサギのサガという物なのだよ」
ライカ
「よく分からないけど、あなたが早起きだって事だけはわかったわ。つまりお腹が空いて目が覚めちゃったのね」
リチャ
「おうしっと。何故かウサギ曲解されてるっ、普通に情報ウサギとしてはおはようからおやすみまで、皆様に様々な情報をお届けするだけなのに!」
ライカ
「やっぱり何が食べたいかしら、ニンジンがいいの?」
リチャ
「ニンジンも好きだが、シュークリームをいただけるとウサギ的には嬉しい」
ライカ
「しゅーくりーむ? うーん、聞いた事の無い食べ物ね。海で取れる食べ物だったりするのかしら」
リチャ
「なんと! ウサギ的にゴットフードとも言えるお菓子が無いとは、残念な限り」
ライカ
「お菓子……お菓子……焼き芋ならあるわよ」
リチャ
「おおぅ、それは何とも素敵なワード! 是非にご賞味預かりたい所」
ライカ
「ちょっと待ってね、ガシガシッと焼いてくるから」
……
……
ライカ
「おまたせーっ。お塩もあるから、好きに使って食べてねっ」
リチャ
「おおっ、有り難き幸せ……やき……いも?」
ライカ
「ん、そだよ。ジャガイモを火で焼いたから、焼き芋って言うと思ったけど……何か違うのかな」
リチャ
「いや、ウサギが知っているのと比べて、あまりに美味そうな香りだから、驚いてしまった予感!」
ライカ
「やだな、ごく普通の焼き芋だよ。確かに今の季節だと、新鮮で美味しいって人もいたりするけどね」
リチャ
(なるほど……どうやら、ウサギの常識とこの世界とは色々な部分で名称や文化などが異なっているという事か。道理でシュークリームも無い訳だな)
リチャ
「しかし、これは……美味! ほっこりとした湯気が立ち、そこからほのかに立ち上る香ばしさ。そこにパラパラッと塩を振る事によって、シンプルなジャガイモの味わいに、わずかな苦味と塩気が入り交じる。これが口の中で小気味よく混ざり合い、舌の上で溶けていく感覚!」
ライカ
「そ、そこまで喜びながら食事するのって初めて見るわ。でもそうやって美味しく食べてもらえるのは嬉しいわね」
リチャ
「ハグハグもぐもぐもきゅもきゅ……ふもっふ……もきゅきゅきゅ……」
ライカ
「ずいぶんと勢い良く食べるのね、ゆっくり食べても逃げないのに。ふふっ」
リチャ
「熱いうちに食べた方が美味なのは、なるべく美味な状態で味わいたいのがウサギ的な流儀という事で」
ライカ
「でも最近は、少し塩も値段が上がっているらしいのよね。またどこかで戦争が起きるんじゃないかって、買い占めてる人がいるみたいなの」
リチャ
「ふむ? このあたりの村は戦争とかに巻き込まれやすいとかあるのだろうか」
ライカ
「んー、どうだろ。お父さんが言う限り、ここはあまり戦争で占領しても旨みが無いから軍隊がワッと押し寄せて占拠するような事は無いって言ってたけど」
リチャ
「ただ、大陸のどこかしらでは戦争……特に小競り合いは起きる事も多く、それで物価が左右されやすいという事なのか」
ライカ
「そうみたいね。お父さん達が昔に冒険者をしていた時、商人の護衛をしていたという事があったって言ってるわ。山賊もそうなんだけど、戦争に巻き込まれて兵士に襲われたりもしたんだって」
リチャ
「ふむふむ、そう考えると剣士は特に色々な所で活躍していたとも言えるんだな」
ライカ
「仕事が無い時というのが、あまり無いみたいよ。どこでも大きないざこざや小さないざこざ、商人が相手の時もあれば、傭兵として国とか領主様が雇い主になったりって、働く場所だけはたくさんあったって聞いてるわ」
リチャ
「それだけ働く場所があるなら、今はどうして宿屋とかしてるんだろうな?」
ライカ
「わたしとお兄ちゃん、子供が生まれたからって言ってるわ。子連れで冒険者は出来ないって事みたい」
リチャ
「なるほど。でもこれだけの作りをした宿屋、ずいぶんとお金がかかったんじゃないかとウサギ的には思えるんだが」
ライカ
「危険な仕事は、それだけお金がもらえるって事らしいわ。あと、冒険者をやってるうちに、ずいぶんとお友達が一杯出来たんだって。わたしもそうやって、色々な人達との信頼や絆を作れるといいなって、そう思うんだ」
リチャ
「ふむ。確かに人と人との出会いは重要、こうしてウサギと出会えたのも、きっと良縁に違いないだろう。この縁がまた他と結びつきあい、人の和となると良いな」
ライカ
「そうね。あ、おかわりいるかな?」
リチャ
「お気遣い感謝。だが、ウサギ的には満足したのでこれで十分。また食べたくなった時は、改めて注文させてもらおう」
ライカ
「ん、そうね。ところでウサギさんはこれからお出かけ?」
リチャ
「そうだな、せっかくだから色々な所を見て回りたいと思う。とりあえず今日は、この大陸ではまだ小競り合いも多く、小さな戦なども起きているという事など知る事もできたしな」
ライカ
「あまり暗くならないウチに戻ってきた方がいいわよ、夜は暗いから何かと危険だし」
リチャ
「了解した!」
そのまま宿を出てさらなる情報を求める事にする【006へ】