【005】
リチャ
「宿でゆったりと朝を待つのも一つの手……と言いたい所だが、情報ウサギ的には夜の街に出かけるのもまた重要。しかしこのプレーリー亭がある所は村なので、夜の街といった部分は無い模様」
リチャ
「なのでプレーリー亭の中にある、酒場へとやってまいりました。先程のライカ嬢が、忙しくお店の中で働いている姿が確認出来る」
ライカ
「いらっしゃい、ウサギさん。さっきのゴハンだけじゃ足りなかったかな?」
リチャ
「あ、いや、食事的には満足度が高かったのだが。情報ウサギたる者として、酒場で皆様の話を聞くというのは非常に重要な案件。なので飲み物を……紅茶をいただければ」
ライカ
「え……そんな高級品、ウチじゃ扱ってないわよ」
リチャ
「な、なんですとぉっ!? 知らなかった……そ、そんなに紅茶は高級品だったなんて……」
ライカ
「ウサギさんって、もしかして貴族関係の所に住んでたのかしら。紅茶は基本的に王族や貴族が中心になって飲んでいる物で、城仕えの騎士でもあまり口にはしないわよ」
リチャ
「おおぅ……そんな王侯貴族様の飲み物とはつゆ知らず」
ライカ
「すると、茶葉の産地の方とかに住んでたのかしら。そういう場所に住んでいると、身近な飲み物になってるでしょうしね」
リチャ
「今までウサギが暮らしていた場所では、割と見かける飲み物だったのだが。それではミルクとかをお願い出来るだろうか」
ライカ
「はいはーい、了解しました。ちょっと小さめなコップを準備してくるねっ」
リチャ
「よろしくお願いする!」
リチャ
「しかしどうやら、こちらの方だと地域ごとによる食べ物というのが、大きな差となって現れているようだな……特に紅茶は産地でも無い限り嗜好品、と。このあたりは、スーパーやコンビニなどがある世界との差を肌で感じてしまう」
ライカ
「おまたせしましたーっ、ミルクだよ」
リチャ
「ありがとうござりまする! そういえば少し聞きたいのだが、ここの酒場にいるお客はずいぶんと体格の良い方々が多い印象。ライカ嬢も冒険者になりたいという事から、冒険者が多いという事なのだろうか」
ライカ
「え? 冒険者の人は……お父さん達の古い友人がたまに来るけど、ここに来るのは村の人達ばかりかな。木こりの人と、農業をやっている人達が中心って所」
リチャ
「ずいぶんとがっしりしたというか、マッスルな方々が多いようだが」
ライカ
「んー、そこはあまり意識してなかったかなぁ。たまに冒険者の人で、細身の人とか見たりもするけど。ウチはお父さんも、お兄ちゃんも、筋肉あるし」
リチャ
「すると細身の人はあまりいない?」
ライカ
「ウチのお客では少ないって所かな。たまに荷馬車で荷物を運んでいる商人さんとかが来るけど、馬車を使っている人達は細身の人が多いわね。なんでも、自分の身体が軽い方が馬への負担が少ないとかで」
リチャ
「なるほど、そういう感じで人が集まる傾向があるという事なのだな」
ライカ
「お肉はお父さんが猟に出て捕まえてくる分と、農家で鳥を育てている人がいるから。その人に譲ってもらったりして準備しているわ」
リチャ
「猟!? ま、まさか……直接、山に入って熊と対決とか。いや、さすがにそこまでは無い……ですよね?」
ライカ
「え? 熊はたまにお父さんが捕ってくるけど。あそこの、カウンターの横に剣が置いてあるじゃない。あの大きな剣で、熊を仕留めてくるわ」
リチャ
「マジですか!」
ライカ
「そんなに驚くような事でも無いと思うけどな。わたしの小さい頃から、お父さんはそうやって食事を準備してくれてたって聞くしね」
リチャ
「なんというワイルドな家庭環境、まさに弱肉強食を地でいく世界。世紀末でも無いのに世紀末臭が漂っている予感!」
ライカ
「うーん、そんなに驚くような事じゃないかなとは思うんだけどな。すべてそれらも大地の恵みだって、お父さんも言ってたしね。生きる事は、食べる事、食べる事というのは、他の命を戴く事。だから感謝の意味と命の尊厳を込めて『いただきます』って言葉はあるんだって」
リチャ
「ふむ、それは確かに一理あるな。なるほど……」
リチャ
(いただきます、という言葉には別の解釈もあるそうだが、この世界ではそういった用法で使われているという事らしいな)
リチャ
「それでは改めて、このミルクをいただきます」
ライカ
「そうね、しっかりと味わってくれると嬉しいな」
ミルクの味に舌鼓を売っていると、背後で急に怒鳴り声があがった。
慌ててそちらの方を振り向く【009へ】
そのまま宿を出てさらなる情報を求める事にする【006へ】